池袋 #IKEBUKURORED

水戸岡鋭治さんスペシャルインタビュー

2019年11月、池袋の主要スポットをめぐる電気バス「IKEBUS」の運行がスタートします!

真っ赤な車体のバスをはじめユニフォームやバス停などをトータルデザインした水戸岡さんに、

イケバスのデザインに込めた想いや池袋のまちづくりについて語っていただきました。

人の気配を感じるデザインは感動を与えるオンリーワンのものになる

JR九州の新幹線や豪華なクルーズトレイン「ななつ星in 九州」などの鉄道をデザインしてきた水戸岡鋭治さん。それまでの鉄道の常識を変えるような夢のあるデザインで私たちを楽しませてくれています。そんな水戸岡さんが豊島区のためにデザインしたのが、赤くてかわいい低速電気バス「IKEBUS(イケバス)」です。これまで大型の観光バスは数多く手がけてきましたが、こんなに小さな公共のバスをデザインするのは初めてだったそうです。
「乗合バスというのは乗客が想定できません。0歳から100歳以上まで、外国人も乗るし、区民も観光客も、誰もが乗るものです。どういう人が乗るのか想定することができないから、ナンバーワンのものではなくてオンリーワンのバスを作ろうと思いました。他のどこにもないもの、池袋にしかないものというのが今回のコンセプトです」オンリーワンの誰も見たことがないようなもの。それを作るには、手間ひまを惜しまないことだと水戸岡さんはいいます。

「量産される車などはプレス加工で大量生産しますが、このバスは1台1台手作りです。職人さんが鉄を溶接して作っていて、椅子の張り地や寄木細工のような床の素材もオリジナルです。全部で10 台ありますが、内装デザインが少しずつ違います。大手メーカーが量産する車ではできないことです。でも公共のバスだからこそ、こうした丁寧な仕事を見せる必要があると思います。乗客は自分が乗っているバスを作った人たちの手技を近くで見ることができるのです。人の心を動かすのは手間ひまをかけて作った人たちの気配が感じられるもの。本当の贅沢とはそういうことだと思います」

写真:水戸岡鋭治さん

ロンドンバスレッドのように、池袋といえばイケバスの「赤」が浮かぶまちに

イケバスの一番の特徴は、目にも鮮やかで、艷やかで光沢のある真っ赤な車体。多くの色のなかからなぜ「赤」を選んだのでしょう?

「赤というのは昔から祭りなどにも使われる特別感のある色で、人々に元気を与える色。高野区長から池袋のまちづくりについての熱い思いを聞いているうちに、こうした強い気持ちを形にするには赤がいいと思いました。赤といっても1000 種類くらいありますから、このバスに一番ふさわしいものを選ぶために、事務所に複数の赤い板をひと月くらい置いて、昼と夜、晴れと曇など様々な条件下で比較して選びました。こうして作られた赤は、イケバスにしか使われていないオリジナルの色です」
赤の微妙な色合いへのこだわりだけでなく、全艶といわれる美しい艶感の塗装も池袋のまちをイメージしたもの。「映り込みが美しく、艶のある車体に池袋のまちや人を映しながら走ります。こういう艶のある車体は汚れや傷が目立つので普通は嫌がられる事が多いのですが、汚れが目立つものというのは、逆にいえばいつも美しい状態を保つことができるんです。手入れをさぼるわけにいかないですからね」赤いバスというとロンドンの2 階建てバスが浮かびますが、水戸岡さんのイメージにもこのバスの存在があったようです。

「ロンドンバスレッドという色もあるくらいで、ロンドンに行ったことがなくても赤いバスは知っていますよね。このイケバスもそんな存在になってほしい。この『IKEBUKURO RED』が池袋のシンボルになってほしいですね」

  • 画像:IKEBUS CARD カラーリングはオリジナルカラー「IKEBUKURO RED」。正面から見た姿は、パッチリお目目でユニークな顔みたい。
  • 画像:IKEBUS CARD かわいい顔をしたバスの中は、カラフルなシートの座席や寄木細工模様の床など、バスに乗っていることを忘れてしまいそうな美しい内装。

デザインは公共のため、そして子どもたちの未来へつなぐため

真っ赤なバスの正面はヘッドライトが目になっていて、よく見ると「IKEBUS」の文字がまつげのようにデザインされ、ユニークな顔になっています。先頭と後ろには赤いふくろうも乗っていて、遊園地を走るミニバスやミニトレインのような遊び心があり、子どもたちが家に帰ってすぐに絵に描けるようなデザインです。

「『イケバス』という名前も覚えやすくていいですよね。一度乗れば、イケバスが子どもたちの友達のような存在になるでしょう。私が公共デザインをするときに考えるのは6 歳以下の子どもと65 歳以上の方のこと。特に子どものことを考えてデザインすると、短い期間でなくもっと先のことを考えなければなりません。目先の利益を優先するような短期的なデザインでなく、未来を生きる子どもたちのことを考えるべきなのです」

“デザイナーは公僕であれ”。つまり公共のためにデザインがあるというのが水戸岡さんの信念です。,
「デザインは個を主張するものでなく、人のため、社会のためのものでなければなりません。長期的に考えると環境のことも考える必要があります。このバスには冷暖房がありません。暑かったり寒かったりすることもあるでしょうが、環境のことを考えて電気バスにした意味をふまえるとエアコンは必要ないのです。私はイケバスのそういうところがとても気に入っていますし、そういうものをつくる豊島区のまちづくりへの姿勢に共感しました。今のことしか考えず、個人の満足度だけを高めてものを作ろうとする時代に、この電気バスは池袋のまち全体の意識を変えるものになるのではないでしょうか」

写真:水戸岡鋭治さん

イケバスはまちづくりというお祭りの神輿。乗客はまちを盛り上げる演者のひとりです

水戸岡さんが豊島区のためにデザインしたのはバスだけではありません。バス停やユニフォーム、イケバスグッズも水戸岡さんがトータルデザインしました。

「日本はデザインを分業化してしまうのでちぐはぐなものができあがるし、コストや時間的にも非効率的です。とくに行政の仕事だとセクションごとに分かれていて、トータルにディレクションできる人がいません。でも今回は区長自らが全体を指揮していて、トータルでデザインすることの重要性を理解していただくことができました。 池袋に新しい劇場ができ、公園もできる。そのなかを新しいバスが走る。新しいまちづくりは、ひとつの大きなお祭りのようなものです」イケバスはそのうちのアイテムのひとつ、お神輿のような存在であると水戸岡さんは考えています。お祭りを盛り上げるのは、池袋に住んでいる人、遊びに来る人、働いていちなど、池袋にかかわる全ての人です。

「池袋は劇場が多く、いろいろな考えをもった人が表現できるまちです。このバスもひとつの小さな舞台のようなものだと思います。演じるのはバスに乗るみなさんです。一人ひとりが少しだけ特別な気持ちでバスに乗り、たくさんの人が思いを込めて作ったオンリーワンの空間を楽しんでもらいたい。そうした日常の繰り返しが、池袋に新しい文化をつくっていくのではないかと思います」

Profile

水戸岡鋭治(みとおか えいじ)

1947年、岡山県生まれ。鉄道車両、船舶、建築、プロダクトデザインなど様々なジャンルのデザインを手がける。特にJR九州の車両デザインで世界的に注目され、数多くのデザイン賞を受賞。車両だけでなく駅舎などトータルなデザインで地域活性化やまちづくりにも貢献している。

掲載:2019年9月20日 文:切替智子 写真:西野正将